ネズミには1800ほどの種類があるそうで、その特徴は多種多様だ。
ネズミと聞くと「害獣」というネガティブなイメージを思い浮かべる人が多いかもしれない。
しかしネズミは種類によって幅広い能力を持つとても優れた生き物なのだ。
人間に害を及ぼすネズミもいるが、人間の生活に大きく貢献しているネズミもいる。
例えば、アフリカオニネズミという大型のネズミがそうだ。
彼らは優れた嗅覚を持ち、なんと火薬の匂いを嗅ぎ分けて地雷駆除の現場で活躍しているらしい。
このように、ネズミの能力は決して侮れない。
そしてそんなネズミの中でも、特別変わった能力を持つ種類がいる。
それは、あの見た目がかなり特徴的なハダカデバネズミだ。
今回の記事では「ハダカデバネズミの能力」に関して簡単に紹介したい。
ハダカデバネズミとは
● 類・住む場所・大きさ
ハダカデバネズミは[哺乳綱齧歯目デバネズミ科ハダカデバネズミ属に分類される齧歯類]で、主にエチオピア、ケニア、ジブチ、ソマリアに生息しているそう。
アフリカ東部のサバンナの地下にトンネルを作って生活をする完全地中棲。
頭胴長は10.3〜13.6cm、尾長は3.2〜4.7cmで、全長が13.5〜18.3cmとなる。
ちなみにゴールデンハムスターの全長は15〜20cmで、ドブネズミは頭胴長18.6〜28cmの尾長14.9〜22cmで、全長が33.5〜50cmとのこと。
● 姿・生態
名前に「ハダカ(裸)」があるように体毛がない。
生息している地中では環境の変化が少ないためか、体温が低い上に体温調節ができないらしく、哺乳類なのに変温動物なのだそう。
集団で生活する動物で、少なければ10頭、多ければ290頭も集まったコロニー(大規模な群れ)を形成する。
哺乳類では数少ない真社会性の社会構造となっている。つまりアリのように集団の中で繁殖・労働・防衛などの役割分担が行われているということだ。
繁殖は群れの中で最も優位であるメス1頭と、1から数頭のオスのみで行われるそうで、授乳は繁殖を担うメスだけが行うとのこと。
ハダカデバネズミの驚きの能力とは
我々人間は生まれて成長し、歳を重ねて老化する。そしていずれは誰もが死を迎えるというのが自然な流れだ。
しかしハダカデバネズミの一生は、我々のそれとはかなり違っているらしい。
ハダカデバネズミは老化しない?
人の老化、他の生物の老化
ではまず、人の老化のメカニズムから簡単に紹介したい。
人間は老いると体力が衰え、色々な病気にもかかりやすくなる。
そしてこのような老化に伴う機能の低下には、実は「老化細胞」というものが関わっているらしい。
人間は細胞分裂を繰り返すが、分裂は平均して50回で止まってしまうそうなのだ。
細胞分裂は年を重ねるにつれて回数が少なくなり、さらには全ての人間の細胞分裂に限界があるという。
そのようにして分裂が止まった細胞が、老化細胞なのである。
この老化細胞は体にとっては不要なもので、免疫機能によって排除されるが一部は残り続けるという。
そして、その残った老化細胞が加齢に伴い体内に蓄積されることで、炎症を引き起こす物質も増加し、様々な老化現象につながるとのことだ。
そこで研究者たちは考えた。
「この厄介な老化細胞を取り除くことはできないか?」と。
そして老化細胞を取り除く研究が開始され、研究が進む中で、老化に対するそれまでの常識も大きく覆されることとなったのだ。
「生き物は老いて死ぬ」という考えが当たり前であったが、「生物種によって老化の過程が異なる」ことが分かり、さらには「老化そのものが寿命を規定していない生き物がたくさんいる」ということが発覚したとのこと。
例えばゾウだが、彼らはなんと傷ついた細胞が老化細胞になる前に自らの体内で死滅させるとのこと。
炎症や機能低下の原因である老化細胞がないのだから、もちろんゾウはがんにもならない。
このように、老化には生き物によって様々なメカニズムがあるのだが、そうした研究の中でもハダカデバネズミの生態が大きな注目を集めた。
マウスの平均寿命が3年なのに対し、ハダカデバネズミは30年以上も生きるかなり長寿なネズミなのだ。
(引用:東洋経済ONLINE)
長生きするハダカデバネズミ。老化耐性をもつ
熊本大学大学院生命科学研究部の三浦恭子教授(長寿動物医科学)らのグループによって、ハダカデバネズミの体内では老化細胞がたまりにくくなっていることが発見されたとのこと。
そのことからハダカデバネズミは老化が極端に遅く、がんにもなりにくいらしい。
「細胞が老化するとセロトニン代謝調節によって過酸化水素が細胞内で生じることで、細胞死が引き起こされて老化細胞がたまりにくくなっている」とのこと。
(引用:ナショナルジオグラフィック)
ハダカデバネズミは無酸素に18分も耐えられる!「ミニ冬眠」が得意技
彼らの住む地下の巣穴は換気状態が良くない上に、その中で数百匹という頭数が集団で暮らしているのだ。
つまり、常に息苦しいのである。
さらに、彼らの巣穴はなんと二酸化炭素濃度が10%にも達するほどの過酷な状態になることもあるそうだ。
二酸化炭素濃度10%というと、人間なら死んでしまう濃度である。
だがさすがにそこまでの状態はハダカデバネズミにとっても危険なのだそう。
ではどうするか?
二酸化炭素濃度が危険なレベルに達すると、ハダカデバネズミは意識を失うそうだ。
そして心拍数を下げ、呼吸を止める。
酸素が再び供給されるまでその状態を保ち「ミニ冬眠」をすることで、危険な状況に耐えるのだ。
必要がなくなるとすぐに呼吸を再開し、活動を始めるとのこと。
米イリノイ大学研究チームが行った実験では、ハダカデバネズミを低酸素状態に置き、その後心臓と脳を調べたそうだ。
そこで、ハダカデバネズミの血中に大量の「フルクトース」が放出されていて、代謝されていることが分かったとのこと。
通常、無酸素状態ではフルクトースが体内で蓄積されて組織を傷つけるらしいが、ハダカデバネズミはその蓄積を有用な燃料に変換することができるらしい。
フルクトースは糖の一種で毒性が高く、人間はそれを腎臓と肝臓で代謝している。
しかしハダカデバネズミはフルクトースを処理できる酵素を心臓や脳をも含む全身に持っているとのこと。
人間は、無酸素状態では細胞が機能できず、間もなく死に至る。
しかし酸素のない状態でも、このフルクトースを燃料に変えて細胞を引き続き機能させられると、人間の生命を救う強力な手段になるかもしれない。
人間にもこの機能を応用することで、脳が酸素不足に陥ってしまう脳卒中や心臓病の患者を救うのに役立つのではないか、と考えられている。
この驚異的なハダカデバネズミの能力は、人類の未来に大きな希望をもたらした。
上記の内容を人間に応用することは、不可能ではないと言われているらしい。
しかし、新たな発見が実際に現場で活用されるまでは、とてつもない時間を要するものだ。
その日に向けて、今日も研究者たちはハダカデバネズミの驚くべき能力の解明に全力を尽くしていることだろう。
(参考記事:ナショナルジオグラフィック、ナショナルジオグラフィック、NHK)
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