アリは世界に推定2万種以上も存在し、その生態は種類によって様々。彼らは昆虫の中でも特に複雑な社会を築き、役割分担をしながら集団で生活をする生き物だそう。
恥ずかしいことに、実は筆者はアリにあまり詳しくない。そのためこれまでのアリに対するイメージは、どちらかと言うと「冷酷」や「凶暴」といったネガティブなものが多かった。
しかし今回色々と調べてみると、彼らの社会性は私の想像以上に高度で複雑であることが分かった。
今回の記事は、アリの社会性の高さが分かる「アリの厳しい監視社会」と「アリの治療行動」に関して。
まるで全員が監視係?ルールを破る者は許さない!
アリはコロニー(大きな群れ)を作って集団生活をする社会性昆虫で、群れの中ではそれぞれの個体に役割が定められている。
役割の種類は女王アリ(1匹〜数匹)、働きアリ、そして兵隊アリとなっている。
女王アリは産卵を行い、働きアリは主に子育てや食料の調達を行う。そして狩りをしたり巣を守ったりするのが兵隊アリだ。
そう聞くと、アリたちは常に良好な関係を保ち、互いに助け合って仲良くしているようにも感じる。
だが実際には、厳しい「取り締まり」が行われていて、アリたちは常に互いを監視し合っているとのことだった。
そしてルールに反した行動を取るものには容赦なく罰が与えられたりと、役割に反した行動は許されない「監視社会」となっているそうだ。
産卵してしまった働きアリは、他の仲間から集団で襲いかかられたり、産卵の妨害や卵の破壊などが行われるとのこと。
働きアリは全てメスで、彼女らにも産卵する能力は備わっているのである。
しかしながら、働きアリの本来の役割は産卵ではなく、子育てや食料調達だ。
そのことから、産卵した働きアリは「掟を破った裏切り者」と見なされ、他のアリたちから攻撃されるのだという。
しかし、こういった行動はどのコロニーでも同様に起こるかと言うとそうではないらしく、これには群れの規模が大きく影響しているとのことだった。
卵を破壊するような行動は小規模のコロニーではより頻繁に起こるが、大規模なコロニーではその頻度が少なくなるという。
そのことから、働きアリが自分の属するコロニーの規模を把握していることが考えられるそう。
働きアリが産卵すれば、しばらく幼虫の面倒を見なければならない。そうなると、本来の役割に当てる労力が奪われることになる。
さらに、働きアリが産む雄は、食料調達などの労働力にはならないそうで、小規模な集団には不利益な存在とのことだ。
しかし、コロニーの規模によって集団の目指す方向性も変化してくる。
ある程度大きくなったコロニーでは、次の世代のことが視野に入ってくる。そして繁殖をして世代交代をすることも重要な目的となるのだそう。
そうなるとさっきのような不利益な雄の個体も、女王アリと交配して子孫を増やすという立派な役割を担うことができるのである。
それが、集団が大きくなるにつれて卵破壊の行動が減少する原因なのではないか、ということらしい。
集団の規模によって必要な行動を把握しているアリたち。その無駄がなく合理的な行動に、私は本当に驚かされた。
「切断手術」をするアリ、手術の成功率はなんと90%!?
2024年7月2日に学術誌「Current Biology」で報告された「アリの手術」の話がとても面白い。
近年、野生動物は様々な方法で治療を行うことが分かってきているそう。前回の記事で書いた、チンパンジーが昆虫をつぶして傷口を手当することなどもその一つだ。
ヒトは切断手術を3万年以上も前から行ってきたそうだが、動物界では初の事例とのこと。
その行動が確認されたのは「フロリダオオアリ」のコロニー。
腿節(5つに分かれた昆虫の脚の3つめのこと)から上を負傷した場合は、脚を切断するそうで、もっと下の部分での傷は切断手術は行われないらしい。
それは一体どういうことだろうか?
ドイツのビュルツブルク大学の行動生態学者であるエリック・フランク氏は、「傷の状態を正しく診断し、それに応じた治療を行っているのです」と言っている。
ナショナルジオグラフィックで紹介されていた動画では、確かに群れの中で一匹のアリが一匹の負傷者に対して切断手術を行っていた。
しかも、治療を受けている負傷者は、脚を噛みちぎられているというのに嫌がる素振りを全く見せていなかったのだ。
まるで、ドクターに「お願いします」と言っているようだった。
さらに、負傷した脚の断面を別の個体が口できれいにしている動画も紹介されていた。
その負傷者もまた、喜んで治療を受けているように見えた。
私はこれまで、アリたちは食料調達と群れの増殖だけを目指してただ単純に働いているだけだと思っていた。
しかしその背景では、かなり複雑な関わり合いが行われていたことを知ることができた。
アリたちはその時の集団に必要なことを分かっていて、適切な対処を瞬時に判断して行動する。
時に厳しく時に優しく仲間と関わり合うアリたちのことを、私は少しだけ好きになったかもしれない。
(参考記事:産経新聞「びっくりサイエンス」、ナショナルジオグラフィック)
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