皆さんは動物園でじっくりとゴリラを観察したことがあるだろうか。
ゴリラは、チンパンジーやオランウータンのように人間に近い類人猿で、生きている霊長類の中で最も大きい生き物。
そしてその体格から「霊長類最強」と言われるゴリラだが、実はデリケートで繊細なところも特徴である。
動物園でよく観察していると、ただ「強くて大きい」だけでなく、色々な側面がありとても面白い生き物であることが分かる。
今回は、そんなゴリラが見られる全国の動物園をまとめて紹介したい。
(※この記事の一部は『ゴリラのすべて』という雑誌を参考にしています。)
ゴリラってどんな生き物?
ゴリラは「霊長目ヒト科ゴリラ属」で、主にアフリカの熱帯雨林と山地に生息している。
種類と生息地
世界に生息するゴリラは実は4種類に分かれている。
大きく「ニシゴリラ」と「ヒガシゴリラ」に分かれていて、さらにそれぞれに2種類ずつ存在するのだ。
ニシゴリラは「クロスリバーゴリラ」と「ニシローランドゴリラ」、そしてヒガシゴリラは「ヒガシローランドゴリラ」と「マウンテンゴリラ」となっている。
ニシローランドゴリラ (ニシゴリラ) [分布地図 赤エリア]
・主な生息地はガボンやコンゴ共和国などの山地や低地の沼地など。
・体は茶色や灰色がかった明るい黒色の毛で覆われていて、頭部の毛は赤茶色なのが特徴。
・大人のオスゴリラは背中部分が白銀色をしていて、そのことから「シルバーバック」と呼ばれている。
・体格はヒガシゴリラに比べて少し小柄。
・オスの平均体重は140kg、メスが90kgとなっている。飼育下では野生のゴリラより重いことが多く、オスは300kgを超える個体もいたそう。
・日本の動物園で飼育されている種類は全てこのニシローランドゴリラである。
クロスリバーゴリラ (ニシゴリラ) [黄エリア]
・4種の中では最も北西に分布していて、現在確認されている生息地はナイジェリア南部とカメルーンの国境にあるクロス川の源流地域の森林のみ。
・生息数も少なく、まだ詳しいことは分かっていないそう。
ヒガシローランドゴリラ (ヒガシゴリラ) [青エリア]
・コンゴ共和国東部の高地、低地の熱帯雨林に生息している。
・体重はオスが170kgほどで、メスが70kg。
・大きな体を覆う体毛は漆黒で、鼻や顔が長いのが特徴。
マウンテンゴリラ (ヒガシゴリラ) [緑エリア]
・ヴィルンガ山地の限られた地域に生息する。
・他の種類に比べて漆黒の体毛が長いため、ずんぐりして見える。
・オスの体重は160kgを越え、メスは90kgほど。
・短い顔をしていて、鼻には数本の筋が刻まれている。
生態
・身体能力
動物園のゴリラを観察していると、大きな体格からは想像できないくらいとても身軽で俊敏に動く姿が確認できる。
それはゴリラの高い身体能力によるもので、パワーだけでなくバランス感覚などにも優れているのだ。
腕の力がとても強く、握力は500kgもあるそうで、なんと人間の10倍である。
また、ゴリラの祖先は樹上で生活していたことから、腕でぶら下がり空中で移動する事ができ、その行動は「ブラキエーション」と言われる。
日本では京都市動物園でゴリラのブラキエーションが見られるが、180kgもあるオスの個体(モモタロウ)が軽々と天井を移動する姿から、ゴリラの力の強さがよく分かる。
東山動物園には展示場にとても頑丈なロープが設置されているが、シャバーニという200kg近い大きなオスゴリラが器用に綱渡りをする姿を見ると、その優れたバランス感覚にとても驚かされる。
さらに、ゴリラは顎の力もかなり強い。
1300psiもあるそうで、ライオンの約650psiを大きく上回っている。
分かりやすく例えると、ボーリングの玉を噛み砕くことができるほどの力だ。
・食事
ゴリラは常に同じ場所で同じ物を食べ続けるわけではなく、様々な食べ物を探し群れで移動する。
食べる物は多種多様で、主な食事は森の中に実る果実や樹皮、アリなどの昆虫や植物など。
大量の果実や植物を食べるゴリラはフンを一日に多くて12回もするそうで、フンの中には果実の種が含まれていることも。
ジャングルを群れで移動しながら食事をし、そしてフンをする。
そのようなゴリラの生活は、森の再生・維持に貢献しているとのこと。
知能
ゴリラは認知能力がヒトと近く、なんと97%以上の遺伝子が人間と共通しているそう。
そして、動物の認知能力を調べる方法として「ミラーテスト」がある。
それは「鏡に映った自分の姿を自分と認識することができるか」という、自己認識の有無を調べるもので、多くの動物はできないという結果になっている。
しかしほんの一握りの動物がミラーテストをクリアしているそうで、ゴリラもそこに含まれているとのこと。
以前、ゴリラの知能に関する研究はチンパンジーほどには行われておらず、道具をあまり使用しないことからゴリラはそれほど明敏ではないと考えられていた。
しかし2000年代初期、ゴリラの認知能力や学習能力がチンパンジーに匹敵するほど高いということが判明し、現在も様々な研究が行われている。
・日本での研究
日本でもゴリラの知能に関する研究が行われていて、京都府にある京都市動物園では国内で唯一「コンピュータ制御によるゴリラの認知研究」が実施されている。
その研究では、モニターに表示された数字を小さい順に選択させたり、画面に映し出された数字を瞬時に暗記させ、隠された数字を正しい順番で選択させるなどが行われている。
このような、ゴリラを対象にした数字の順序を覚える課題の研究は世界的にも珍しいとのこと。
京都市動物園のゴリラの室内展示場には「お勉強部屋」があり、ゴリラたちがお勉強に自ら挑戦する姿が見られる。
正解した時には自動的にご褒美が与えられるシステムのため、ゴリラたちの意欲も上がるのかもしれない。
さらに京都市動物園では、ゲンタロウというオスゴリラがその学習能力の高さで注目されている。
ゲンタロウは幼少期からお勉強に意欲的な姿勢を示し、その学習速度は卓越したものだったそう。
(※京都市動物園のゴリラのお勉強に関して詳しく知りたい方は、ぜひ公式サイトや公式Youtubeを御覧ください。)
・言語を扱うゴリラ
手話をするゴリラ、「ココ」の話をご存知の方は多いかもしれない。
ココは1971年に誕生したメスの個体で、世界で初めて言語による人とのコミュニケーションを成功させたゴリラである。
ココはアメリカ手話を巧みに使って「空腹だ」などの意思表示をしたり、自ら話しかけることも多かったそう。
習得した手話の語彙数は1000を越え、英語の話し言葉では約2000もの単語を理解していたとのことで、ココの知能指数はなんと70〜95もあったらしい。(※標準的な人間の知能指数は100)
寿命
ゴリラの平均寿命は野生では35年、飼育下では50年ほどと言われているが、平均を大きく超えて長生きするゴリラもいる。
ドイツ・ベルリンの動物園で飼育されているファトゥというメスゴリラは現在世界最高齢で、2024年4月13日に67歳の誕生日を迎えたとのこと。かなりのご長寿だ。
ちなみに国内最長寿記録はオキというメスの個体で、53歳まで生きたそう。
最近では2021に上野動物園のピーコが推定年齢51歳で永眠した。
2024年現在、国内最高齢のゴリラは52歳のメスのネネ(東山動物園)で、オスのゴリラではタロウ(日本モンキーセンター)が最高齢となっている。
日本でのゴリラの繁殖記録
日本での飼育数は1990年が最多となっており、その頃は25の施設で50頭ものゴリラがいたそう。
しかし野生からの輸入が禁止されたことをきっかけに、その数は見る見るうちに減少し続けることに。
さらに国内での繁殖もなかなか進まず、一時は日本のゴリラは1頭もいなくなるだろうと言われたらしい。
本来群れで生活するゴリラは仲間から繁殖の方法を学ぶはずだが、1〜2頭ずつ飼育されていた国内のゴリラたちは、他の個体との付き合い方を上手く学べなかったことも関係しているのかもしれない。
しかしそんな危機を脱するため、全国の動物園は力を合わせて奮闘した。
そして1994年、東京の上野動物園を中心にゴリラの国内繁殖を目指したプロジェクトがスタートしたのである。
プロジェクト開始から様々な苦境を乗り越えて、ついに2000年7月3日、上野動物園でゴリラの繁殖が成功し、新たな命が誕生した。
それが、現在京都市動物園で飼育されているシルバーバック、モモタロウである。
モモタロウは今年で24歳の誕生日を迎えたばかり。
几帳面で綺麗好きなモモタロウは今では2頭のゴリラの父となり、立派な父親になるため日々成長中とのことだ。
ゴリラの繁殖プロジェクト開始後、現在のゴリラの国内個体数に大きく貢献したゴリラが2頭いる。
それは海外からやってきた兄弟ゴリラ、ハオコ(兄)とシャバーニ(弟)だ。
2頭は2007年に来日。その後、どちらも繁殖に成功している。
シャバーニは数年前「イケメンゴリラ」として話題になった有名人ゴリラだ。
アニー(メス)とキヨマサ(オス)の父親で、東山動物園で元気に暮らしている。
ハオコは上野動物園で4頭の父親となり、子どもたちは上からコモモ(メス)、モモカ(メス)、リキ(オス)、そして2022年5月31日に誕生したスモモ(メス)となっている。
「イケメンゴリラ」として知られる弟のシャバーニと、優しく子ゴリラをあやす姿が見られる「イクメンゴリラ」の兄ハオコ。
2頭は日本のゴリラの繁殖プロジェクトに素晴らしい結果をもたらした。
国内でゴリラがいる動物園
現在国内では6つの施設で20頭のゴリラが飼育されている。
ではそれぞれの施設ごとに紹介していこう。
千葉市動物公園
(住所:千葉県千葉市若葉区源町280)
◯ 敷地が公園のような広々とした構造になっている。
ゴリラの飼育数は2頭。
ローラ(メス)
・1977年9月21日に生まれる
・性格は人好きで、口笛を吹くというすごい特技を持つそう。
モンタ(オス)
・1984年9月25日に生まれる
・穏やかな性格。顎の毛をむしる癖があるそう。
(ちなみに筆者はモンタくんモデルのLINEスタンプを愛用している)
上野動物園
(住所:東京都台東区上野公園9−83)
◯ 日本で最初に開園した動物園。
ゴリラの飼育数は国内最多の7頭。
トト(メス)
・1978年に生まれる
・繁殖のため静岡県日本平動物園から移動してきた。
ハオコ(オス)
・1993年8月21日に生まれる
・繁殖のためオーストラリアのタロンガ動物園から来日。シャバーニの兄。
モモコ(メス)
・1983年6月3日に生まれる
・繁殖のための移動歴が多く、経験豊富な強い母ゴリラ。ちなみにモモコがビジュとの間で、国内で最初に生んだ子が京都市動物園のモモタロウだ。
コモモ(メス)
・2009年11月14日に生まれる
・父ハオコ、母モモコで、上野動物園にいる2頭の子ゴリラでは長女。
モモカ(メス)
・2013年4月24日に生まれる
・ハオコとモモコの次女。日本で初めて群れの中で生まれたゴリラだそう。
リキ(オス)
・2017年10月9日に生まれる
・ハオコとモモコの長男。
スモモ(メス)
・2022年5月31日に生まれる(現在国内最年少)
・ハオコとモモコの子。
浜松市動物園
(住所:静岡県浜松市中央区舘山寺町199)
◯ 国内でゴールデンライオンタマリンに会えるのはここのみだそう。
ゴリラの飼育数はオスの1️頭。
ショウ(オス)
・1976年に生まれる
・穏やかで臆病な性格。過去にパートナーを失った精神的ショックでかなり危険な状態までなったそう。目を擦る癖があったため、瞼が腫れている。畑の作物はすぐ食べず、熟れるまで待つ派らしい。
東山動植物園
(住所:愛知県名古屋市千種区東山元町3-70)
◯ 敷地には動物園、植物園、遊園地がある大きな施設で歴史も長い。
ゴリラの飼育数は5頭。
ネネ(メス)
・1972年に生まれる
・現在国内最高齢。気の強いおばあちゃんゴリラ。
シャバーニ(オス)
・1996年10月20日に生まれる
・ハオコの弟。子どもたちと無邪気に遊ぶ姿が見ていてとても面白い。表情豊かでキリッとした目線がかっこいい。「イケメンゴリラ」として有名になったのも納得だ。しかしかなり繊細で環境の変化などに大変弱いそう。
アイ(メス)
・2003年2月27日に生まれる
・母親はネネ。キリッとした眉毛があるようなかっこいい表情が特徴的なメスゴリラ。
キヨマサ(オス)
・2012年11月1日に生まれる
・シャバーニとネネの子。
アニー(メス)
・2013年6月2日に生まれる
・シャバーニとアイの子。人工保育だったため人が好きだそう。人工保育はとても大変な事だが、無事に群れに戻ることができ、今では立派な群れの一員。
日本モンキーセンター
(住所:愛知県犬山市大字犬山官林26)
◯ 世界屈指のサル類動物園だそう。
ゴリラの飼育数はオスの1️頭。
タロウ(オス)
・1973年4月20日に生まれる
・現在オスでは国内最高齢のおじいちゃんゴリラ。つぶらな瞳が可愛く仕草も可愛い。ペットボトルの蓋を回して開けるのが特技。
京都市動物園
(住所:京都府京都市左京区岡崎法勝寺町 岡崎公園)
◯ 上野動物園の次に古い動物園。近畿圏で唯一ゴリラが見られる場所だ。
ゴリラの飼育数は4頭。
モモタロウ(オス)
・2000年7月3日に生まれる
・上野動物園にいるモモコの子。父のビジュは早く死に、父親に育てられた経験がない。そのため2頭の子どもたちとの関わり方を日々手探りで学んだそう。今では立派な父親と言えるほどに。
ゲンキ(メス)
・1986年6月24日に生まれる
・過去に上野動物園で過ごしたことがあり、実はモモタロウの母モモコと、オスゴリラを取り合った経験がある。食べることが大好きだそう。
ゲンタロウ(オス)
・2011年12月21日に生まれる
・モモタロウとゲンキの最初の子で、控えめな性格の長男だ。最近は少しずつ頭が盛り上がり(大人ゴリラの特徴)、背中も白くなってきた。
キンタロウ(オス)
・2018年12月19日に生まれる
・モモタロウとゲンキの次男。兄のゲンタロウよりも大胆な性格で、父のモモタロウによくちょっかいをかけて遊んでもらっている。
まとめ
上記で説明した通りゴリラは現在日本に20頭しかいない。
2022年にスモモが生まれて順調のようにも見えるが、全体的に考えると国内ではゴリラの高齢化が次の課題となっているようだ。
ゲンタロウやキヨマサなどのオスゴリラは繁殖に十分な年頃なのだが、現時点では国内でのパートナー探しが難しいそう。
なぜなら国内では限られた個体数の中で繁殖が行われたため、同じ血を引くものが多いからだ。
ゴリラの繁殖プロジェクトはこのような新たな壁にぶつかっているが、私達にできることは一体なんだろうか。
野生のゴリラは森林伐採や感染症、密猟などが原因でその数を減らしていて絶滅危惧種に登録されている。
2018年には懸命な保全活動によってマウンテンゴリラの個体数が少しずつ増加したとの報告があったそうだが、ヒガシローランドゴリラに関してはまだまだ深刻な危機のままだそう。
現地のアフリカではゴリラのエコツーリズムで環境保全の活動が行われていていて、野生生物や自然環境を守るためには、現地住民たちの理解や生活の安定が重要とのことだ。
このようなエコツーリズムによって現地の観光業が発展すれば、ゴリラが直面している絶滅の危機を防ぐ土台ができるだろう。
しかしアフリカに行ってエコツーリズムに参加するのは簡単ではない。
だからこそ私達にできることは、「ゴリラを知り、ゴリラに会いに行くこと」だと思う。
国内でもあらゆる施設でゴリラの生息環境を守る活動が行われていて、最近では4つの動物園で「不要スマホの回収BOX」が設置され、ゴリラの保全活動に私達でも貢献できるプロジェクトが行われた。
このようなプロジェクトは気軽に参加できるので、詳しい知識がなくても環境保全に貢献できるところが嬉しい。
さらに、多くの動物園ではそういった活動やゴリラたちが直面している危機に関して詳しく説明しているコーナーがあったりする。
情報を知ることは、動物を守るための第一歩。
だからまずは動物園に行こう。
そしてゴリラたちをよく観察し、興味を持とう。
そうすることで、ゴリラたちの未来が大きく変わるかも知れない。
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